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film

台湾ドラマに関する考えのメモ

  2008/11/97月 7th, 20222 件のコメント

先日tomohiroさんからのメールがあって、台湾ドラマについての意見を頂いた。そして「台湾ドラマや映画はどう発展する、もしくはどうにも発展しない?意見を求めたい」との旨の質問があった。
メールでは、台湾ドラマや映画の一元性を指摘し、「台湾は80年代で変な映画をいっぱい作られていたから、そのノウハウが生かされていたら、もっと多様性が持たれているのではないか」とも。
私見だが、80年代での多作濫作期では、ドラマも映画もそれなりのノウハウは生み出された。しかしドラマの場合、90年代後半からのケーブルTVの普及、及び局数の急激の増加により、テレビ番組制作に大きな変革が生じた。今まで本気でテレビ番組(特にドラマ)制作に携わってきた役者やスタッフに、適正な報酬が与えられずになる状況になった*1。そんな彼らは舞台を中国に移しざるをえなくなり、蓄えてきたノウハウも、人材と共に中国に流出し、台湾は空っぽな殻しか残ってない。
かと言って、需要は劇的に少なくなっても、やはり必要はある。でももらえる予算の大幅ダウン*2と人材流出という悪条件の下で、低コストと経験の乏しいスタッフ/役者を応用して、作らなければならない。70〜80年代なら、そのソースをなんとか自力で生み出して、ヘンテコでもとりあえずテレビに流して、ステップバイステップで経験を積み上げていけるのだろうけど、質の高い日本ドラマやハリウッド映画に挟み撃ちされてる現状だと、そうにでもやれない。
そこで生み出したのは、今のいわゆる台湾ドラマ。金さえ払えばもらえるハイクオリティの日本(マンガ)を脚本として使い、とりあえず脚本を固めれば、役者が下手でもなんとかなる、ような発想。そしてどうせ最初からうまい芝居も期待していない(できない)から、きれいで端正な顔立ちを優先にして役者を選び(結果として劇団出身よりモデルやアイドル上がりが多くなる)、全員の演技がセリフ棒読みしかできなくても、作品全体の雰囲気を美しく綺麗に纏め上げれば、とにかくいい感じが出る。それが『流星花園花より男子)』で成功し、一つの有効な作り方(ビジネスモデル)として固められたと思う。

流星花園 ~花より男子~ DVD-BOX 1

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tomohiroさんは、台湾ドラマは女性向けと意識して、安直に少女マンガを原作することを指摘してきた。でも自分の考えは少々違って、台湾ドラマは少女マンガ原作が多いのは、その作り方の根底にあるモノは、少女マンガの根底にあるモノと近いからと思う。
少女マンガは、夢の中だけでしか触れない世界や話を、できるだけに美しく綺麗にラッピングして、なおかつ分かりやすくして、身近に置いてほしい、との女の子の欲望を満足するのが基本だと私は思う。そして台湾ドラマは、意図的ではないと思うが、同じような思考で今作られている。

夢の中だけでしか触れない世界や話
→遠い夢の国(日本などの先進国)でしかない話
できるだけに美しく綺麗にラッピング
→美男美女を使って画面をキラキラさせる
分かりやすくして
ローカライズ
身近に置く
→テレビつければ見れて、握手会があって、グッズやDVDが買える

なので本質から相性がすごくいいのだろう。またトレンディドラマの体質では恋愛モノが望ましいこともあるので、原作は人気の日本少女マンガから漁るのがむしろ自然。一方自分の知ってる限り、オリジナルシナリオにもかなり書かれているけど、しかし制作期間が大抵短く、予算はあっても宣伝に回していくので、シナリオの質はなかなか上げられない。権利関係をできればすべて自分(テレビ局)で握ろうとするから、台湾のほかの媒体(小説、マンガなど)で発表したコンテンツとのメディアミックスをしたがらない(積極的にはしない)、なので多様性はさらに望めない。
台湾でマンガの制作をやっていて思うけど、この国は「モノ作り」に対する考え方が根本的に違うのだろう。いつからか(90年代後半からだろうけど)、モノは「作る」のではなく、「取り寄せる」のが基本のようだ。
「ほしいモノはどこにもないから自分で作ろう!」ではなく、「ほしいモノはどこにもないなら手に入れるモノでいいや」或いは「みんなの持ってるモノはぜひほしいが、どこにもないモノはいらない」、「ないモノなんて想像もつかない」な感じ。ぶっちゃけ言えば、たぶんもうオリジナリティのあるモノを量産で作れない(単発はきっとあるが)、と思う。ただ見る角度を変えれば、この「苦労して作らない」発想も実にクリティカルだとも思える。
「娯楽」はそもそも、「あればいい」かもしれない。なくても困らない。
なので多様性よりも、本能に刺激するモノをたくさん並べれば、もう物足りる。
YouTubeの再生回数の上位は常にアクシデント(ハプニング)、時事やニュース映像、美男美女や変人怪人であるように、人が見てみたいモノは実に思ったより幅がない。そして台湾のテレビ番組は、こう見るとなんとYouTubeの上位ジャンルの映像を繋いで放送しているような作りになっていて、「発展」の基準を「時代の流れにどれだけ符合するか」と定義したら、ある意味最先端に走ってるかも。
自分のようなモノ作りにとって、地獄のようなもんだけどね。

*1:それ以外、きちんと自分で作るより他国からヒット作を買ってきて流す方が安上がり、とのような傾向に嫌気をさして台湾から出る、もしくは引退の人もいる。

*2:ケーブルTV時代に入って、100もあるチャンネルの中、視聴率はなかなか取れない。15年前の「人気ドラマ」は普通に30%も40%もの視聴率が取れるのに対し、現在は2%が取れれば大ヒット。でも全国の視聴者の2%しか見てない番組の広告に、どれぐらい広告費が出せるのがたかが知れる。

elielin

数年前は東京でアニメ制作進行をやってた台北在住の台湾人編集者です。おたくでもギークでもないと思うけど、そう思っているのがお前自身だけだと周りから言われています。時々中野区に出没。

2 件のコメント

  • tomohiro より:

    Elie Lin様
    貴殿の台湾ドラマへの考え、
    拝聴しました。
    そういう考えもあるのかと思って感心しています。
    日本におけるこの手の台湾ドラマへの
    報道は、口ぶりが甘く提灯記事が多いです。
    「練馬大根ブラザーズ」
    では無いけれども、韓国ドラマには
    比較的批判的な論調もあるのに大して好対照です。
    台湾ドラマを褒めそやすのはいいかもしれませんが
    こういう観点で、台湾ドラマも見ていってはどうだろうかと
    考えています。
    所で貴殿の会社の女性スタッフは臺灣偶像劇は
    好きなのでしょうか?

  • elielin より:

    >tomohiroさん

    日本の報道は、どこか近い価値観を持ってる(というか日本の亜流)台湾ドラマを褒めるのは人の情。「日本のよりスバラシイ!」と勘違いしなければ、大丈夫じゃないかと思います。

    >「練馬大根ブラザーズ」

    あの韓流パチンコの回の井上和彦さんの使い方がひどいよね(笑)

    でも思えば、韓国ドラマのあの強固な個性(くせ)がなければこのような批判も成立しません。台湾ドラマについては提灯記事が多いのは、もしかして皮肉ができるような特徴が見えてこないからかもしれません。

    >女性スタッフは臺灣偶像劇は好きなのか

    全然見てませんね。なにせ視聴率2%の世界。時間があればオンラインゲームと同人誌作りに当てるようです。

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