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乱筆乱文など

遥かなる民主国【中】

  2008/3/307月 7th, 20224 件のコメント

さて。昨日の話は暗かったところで終わってしまったね。今日は少し挽回になるのかな(ちょw、何を挽回しょうとするのか?)
で、2008年3月22日での選挙の結果というと、国民党の立候補馬英九氏は200万票以上の大差で民進党の立候補謝長廷氏を破り、総統を当選。台北の街の中ではあっちこっちに甲高いお祝いの爆竹や花火の音が響き渡り、国民党を支持する人々の上げた歓声は13階に住んでる私でも微かに聞こえてしまうことに対し、台湾のネット界隈で活躍してるブロカーは民進党を支持してる人が多く、もうBBSサイトPTTでの書き込みやTwitterのタイムラインで悲鳴が嘆きが啜り泣きがスクリーンの向こうからリアルに聞こえる状態だった。
200万票差は選挙ギャンブルの親も真っ青な結果だった。*1馬英九氏の勝利を喜び、支持者の中には連日椀飯振る舞いをする者もいて、「これからの4年は少し変わる」から「これで台湾は救われる」の声まである。24日の株式市場もお祝い買いによる株高が起き*2、対中国の投資・往来の開放*3への期待感が高まっていると見る。
一方、謝長廷の敗退は支持者にとって衝撃な出来事だった。直後の22日深夜から各ブログで何十編の記事が上がってきて、不安や悲しみを訴えて失望の末に馬氏及びその支持者を呪い始めたものや、馬英九氏を祝福し、できるだけ冷静と理性でこれからの中国とどう向かい合うべきかと考える記事もあった。翌23日、元総統府国策顧問で、日本でも台湾独立運動の旗手だと知られる金美齢氏が、国民党の勝利を受け、「台湾はもう可愛くない」とか「(馬氏に票を入れた700万人は)中国を選んだから当然台湾人ではない」などの爆弾発言を残し台湾を去った。
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こちらでは批判のつもりで映像を引用しているのではないが、Youtubeにある関連動画も含めて、そこのあるコメントは読んでてぞっとするほどの罵詈雑言の嵐。たかが支持した立候補が当選しなかっただけに、たかが支持する立候補が違うだけに、なぜこうも激しい言動が繰り出せる?
私が思うに、同じ台湾人で、同じ「国(台湾)」を言及していても、実は違うモノを指していたりするところを認識することで、解読のキモになるが。台湾に生まれ育ったとしても、その生まれ育った時代、つまり世代により歴史認識、ナショナル・アイデンティティにズレがあり、ズレどころが全く重ねていないのもある。
金美齢氏を例に挙げると、2004年には一回、彼女とそちらの事務所で3時間ほどお話ができた*4歴史認識や台湾意識をさて置き、親切で気さくなおばあちゃんだった。しかし不思議というべきか、初対面した時に私からは国語(北京語・マンダリン)*5で挨拶したら、台湾語*6で答えてきた。台湾語は聞き取れるがしゃべれないので、おそるおそる国語で応答しているうちに、金さんは日本語で話しかけてきたから、日本語で返した。「日本語上手だね」と褒められ、そのまま2時間半ほど日本語でお話を伺った。
うちは本省人家族で、私以外全員台湾語しゃべれるんだが、私だけは未だにうまくしゃべれないし基本は使わない(聞いてわかるけど)。台湾語をなめていたり貶してるわけではないが、言葉を使うならうまく自分の意思を伝達する方を選びたい。*7それだけ。だから当時では金さんはもしかして国語不得手だから、あえて日本語で話しかけてきたと思った。しかし台湾に帰ってインタビューに答える映像を見たら、普通に中国語でしゃべってた…つまりあの時、何かが彼女に国語で話したくないモノがあったことになる。
実際、その時の対話でもわかった気がする。金美齢氏が言ってた台湾は、40歳年下の私とは違うものだった、と。彼女が半生をかけて独立させようとするあの台湾は、私が知っているものではなかったことを。金さんの思う「台湾」は、1945年以後中国から来た政権・中華民国=国民党に奪われ、その魔の手から、台湾はなんとしても独立しなければ振り払えないし、そして今でもまだその掌の中なのだ。*8でも私の知る「台湾」は、その中華民国と全く同義なもので、国民党は中華民国そのものではなく、ただそこに存在している一政党にすぎない。
私にとって当たり前のように存在していて、それによってナショナル・アイデンティティが築き上げられる「中華民国」は、彼女にとっては故郷を強奪した憎むべき敵だと――その憎しみは、その時代を目にしたことのない私から見ては、なぜか病的なものでしか映らないと。
台湾はそういう分断のある国だ。歴史も、人も。集まりのようで実は集まりではない。
うちの家族の中でも、1916年生まれ、今はもう故人になった祖父が、国語は全くしゃべれない本省人だけど自分のことを中国人だと思っていた。亡くなる10年ほど前から、自分のことは「台湾人だ」というようになった。1925年生まれの祖母は、20歳までには自分は日本人(と同じ)、その後は「日本人じゃない」→「中国人(外省人)でもない」→「たぶん台湾人」みたいな過程を経て今は「台湾人だよ」と落ち着いた。1951年生まれの両親だって「自分は中国人」→「中国人でもあり台湾人でもある」→「台湾人」のような変遷があり、1976年生まれの自分は「中国人でもあり台湾人でもある」→「(いや中国=中華人民共和国は別の国だから)台湾人」だった。*9
でも、1993年生まれの従妹になって、彼女は最初から「自分は台湾人」と認識するようになっている。そして当の彼女も、それが当たり前だと思っている。50年間もかけて、やっとここまで来たという感じかな。
ただ、この台湾人認識(ナショナル・アイデンティティ)にある「台湾」はイコール「中華民国」で、金美齢氏らが求めてる「中華民国から脱却した台湾」ではない。なので彼女が帰りたかった台湾は、悲しい話だが、確かにもうどこにもなかった。上の動画を、そしてYoutubeにあるコメントを見て、さらに確信した。正直な話、私は彼女たちのような世代の悲しみと悔しさは全く共感できない、だけどがんばれば、なんとか理解はできる。しかしあと十数年も立てば、理解しようとする人でさえ、もっと少なくなるのだろう。*10
そして、台湾=中華民国ならば、実質は50年も前から(今の中国から)独立していて*11、改めて(中華人民共和国から)独立する必要はない。課題があるとすれば、「中国(中華人民共和国)と統一するか否か」のみ。だけどコレはたぶん、いま台湾で暮らしている人たちは、やすやすと賛同しないんだろう。少なくとも私は反対だ。
……終わらん。また明後日。今度こそ今回の総統選挙で見た、ささいな希望の数々を述べるorz

*1:一番多い予想は50万か100万票差で馬英九氏の勝ち。チベットのこともあって、当日まではむしろ両者の得票差は縮める予想が本命らしく、見事に大ハズレ。中南部では親側に夜逃げの人が続出、という噂。

*2:実際選挙前日の21日まで、台湾株式市場は米国株安にも関わらず異常な株高が見られる。与党の民進党である謝長廷氏が当選した場合には株安だと予期されるので、これは外資も含め、投票前日にはすでに国民党の馬英九氏の勝ちに押していると見られる。まあ値を吊り上げたあとに25日すぐ一気に売っちゃったけどね。台湾ドル高だし。

*3:正直の話、私もいい加減直行便ぐらい開通してほしい。前回杭州へ行く時には、朝5時半家から出ても、香港での乗り継ぎとかで着くのは午後2時。朝9時の便を乗ってきた日本組より1時間も遅れた。ビジネスマンたちのこのような金銭的と時間的と精神的なロスが、台湾対中国の貿易が増える今では毎日大量発生している。そりゃいろいろと遅れてしまうよ。

*4:目的は小林よしのり氏を紹介してほしいなんだけど、失敗。

*5:中華民国が1926年に制定した標準中国語。「台湾国語」や「台湾華語」とも言う。台湾の小中学校の「国語」の授業ではこちらの言葉を教える基本。

*6:ホーロー語。漢語方言の一つとされ、台湾で話される閩南語の変種らしい。90年代以降台湾では台湾語がしゃべれないと大阪で大阪弁がしゃべれないみたいなもので、私のような人はやや肩身狭いです(笑)でも90年代以前では台湾語しかしゃべれない人がもっと肩身狭かったようだ。

*7:祖父と祖母は国語しゃべれないけど、聞いてわかる。なので子供の頃は祖父母からは台湾語で話しかけられ、私は国語で返す。10代後半から日本語がしゃべれるようになって(台湾語も日常用語の単語ぐらいはしゃべれた)、コミュニケーションは徐々に日本語&台湾語混ぜにシフト。

*8:2000年、2004年の民進党の政権取得は、彼女及び70年代から独立運動に携わった方々にとって、国民党=中華民国を消滅する好機だったかもしれない。しかしすでに台湾と一体化して、国民党の独裁から脱却した「中華民国」は、消滅しようがない。

*9:うちは台湾北部(基隆・台北)で根を下ろした家族なので、台湾中部・南部だったらまた全く違うバリエーションがあるかもしれない。

*10:私のような物好きでなければなかなか…1934年生まれの金さんより15才ぐらい年下のうちの両親だって「あの人アタマがおかしい」と言って片付けてたし。

*11:中国の近代史から見ると、中華民国政権が台湾に移し、消滅していなかったというのを前提にしていたら、中華人民共和国(1949年建国)の方こそ前の中華民国(1912年建国)から「独立」したもので、中華民国中華人民共和国「から」独立することはありえない…と、教科書には書いてないが、高校時代の「三民主義憲法の勉強ね)」という科目の先生がそう言い張ってた。あの時でこんな考え方する人は、いま思うとかなり先進的だ。実は中国からの統一の脅しに対し、衝突の拡大を抑えるのと国際的な支援を求めるには、「中華民国」という残骸を捨てるより、うまく利用して立ち回るのが得策だと思う。

elielin

数年前は東京でアニメ制作進行をやってた台北在住の台湾人編集者です。おたくでもギークでもないと思うけど、そう思っているのがお前自身だけだと周りから言われています。時々中野区に出没。

4 件のコメント

  • リー より:

    初めまして
    私は彰化市出身の在日台湾人です(日本に帰化済み)
    今は台湾外資系の会社で働いています

    ブログ、大変興味深く読ませていただきました。

    自分も金美齢氏にはかなり違和感持っていましたけど
    今回の件でそれが確信に変わりました。

    いくらなんでも馬英九に投票したら台湾人じゃないなんて
    私の従姉弟は馬支持ですが「台湾人じゃない」なんて言われたら
    気分的に緑寄りの自分でも怒りますよ

  • sai より:

    世代によってかなり見方が違うんでしょうね。ちょっと前までは戒厳令がひかれていて、日本やアメリカで亡命生活を余儀なくされていた方も結構いらっしゃったわけですから、「中華民国=国民党=弾圧者」としか考えられない人だっているのでしょう。

  • elielin より:

    >リーさん

    はじめまして。

    金美齢氏の発言は暴言としか言えませんが、その心情を考え、理解できないことではないと思います。互いの体験を尊重し、理解し合うように努力するのは、台湾人である大きな課題でしょう。

    でも金美齢氏の方にも少し冷静になってほしいです。うちの親族もほとんど馬英九に票を入れた者で…ニュースが流れた日の会食ではもう…本当に暴言ですよ。一言でこんな多い人を怒らせるのも難しい芸当と思いますが、やめてくださいよぉ(嘆)

    >saiさん
    >「中華民国=国民党=弾圧者」としか考えられない人だっているのでしょう。

    そうですね。同時に「国民党がなければ自分の今の幸せがない」と思う人もいる。なので幕末のように、纏められない人々をがんがん殺していくやり方を取らずに纏めようとすると、かなりの労力と時間と資源がかかるのでしょう。

    実際台湾はこの30年間、それらをかなりかけました。そして流れる血を見事に最小限に抑えて、ある程度の成果も見せました。ただこれからも存続にかかると見込めますので、消耗できる時間と資源はやや限りが見えてきた現在は、ここら辺は難題でしょう。

  • tomohiro より:

    その、頭がおかしいという考えで
    思いついたのですが、
    今更ながら此処にカキコします。
    私の母は臺灣語などの漢語方言が
    北京語と違う言語という風には結びつかない
    のです。先日中國大陸の江西語の資料を見ていたとき
    「この江西語といい臺灣語・広東語は北京語からみたら
    外国語に等しい。」
    とつぶやいたのですが、
    母は
    「そんなことはない。」
    と言い張るばっかりでした。
    母のような世代には馴染み易いように
    欧米の話題で
    「漢語方言は、北京語と臺灣語と広東語と江西語と呉語は
    ロシア語と英語とフランス語とドイツ語とスペイン語ほど
    違う。」
    と言っても駄目です。
    私の両親や祖父母の世代は海外といえば
    西洋・欧米一点張りで
    其れを見ただけで世界が見えたような感覚で
    支配されています。
    最近、海外旅行に興味がない若者が増えていると
    日本では言われていますが、
    そういう親世代の西洋に対する過剰すぎる幻想への
    反対意見だと考えています。
    私が臺灣などに接近するようになったのは
    親世代が欧米しかみない事への疑問からでした。
    私は西洋にあこがれを持つことがそんなに凄いことなのか
    いいことなのかとつい考えてしまいます。
    30代より下の日本人はそれほど西洋への憧れ
    が無い代わりに足もとにあるアジアを見ようと思う
    人が増えたなとは思います。
    全てが全て海外旅行に興味が無くなったわけではないと。
    おそらくオヤジ世代が憧れた欧米に興味がないことに
    驚きがあるのかもしれません。

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