9月に東京で見に行った映画の感想をそろそろ書かないと、なんだか忘れてしまいそう(天の声:えっ?)なので、とにかく『ラストマイル』について。
この映画は、完全に脚本家の野木亞紀子氏を目当てで見に行った。その点に関しては大変満足している。脚本は緻密で、大規模な場面から細かいディテールまで手が込んでいて、派手な爆発シーンも、切実な社会批判も、為す術のないやるせなさも、ほっとする暖かさも――すべてが「需要に歪められた物流業界」という社会派テーマにしっかりと結びつく。主人公たち、物流会社、現場の配達員がそれぞれ紡ぐ話が、終盤のクライマックスを経て収束し、見る者に考える余白を残す。
また、野木氏と長年タッグを組んできたテレビドラマ『アンナチュラル』や『MIU404』の監督・塚原あゆ子氏の演出によって、2つのドラマの要素をうまく活用し、いわゆる世界観の共有する「シェアード・ユニバース」を自然に実現している。豪華なキャスト陣も相まって、不満を覚えるところはほとんどない。
と。言うものの、見終わってみると、なんとも微妙な感じがする。
映画を見た直後、満足度は高いはずなのに、何かがしっくりこない感覚が強烈に残った。そう、しっくりこない。
それで数日間考え込んでしまった(天の声:ええっ?)
結論から言えば、すべてが揃っていながらも、結局どこか番外編的な…「本編が見たい」との気分になってしまうのが、微妙な感じにつながった。
「シェアード・ユニバース」が生み出した違和感と言うべきか、主人公である船渡エレナ(満島ひかり)と梨本孔(岡田将生)はこの映画では主役として活躍しているものの、『アンナチュラル』と『MIU404』とのシェアード・ユニバース、その共有された世界観の中では、この2人はどちらかの作品内の一話にしか登場しない、ゲストキャラのように感じてしまうのだ。
うん。無差別連続爆破事件を軸から考えると、これはおそらく『MIU404』のエピソードの一つに相当するだろう。
あらすじを書き出せば、もう少しわかりやすくなるのだろう(以下、ネタバレ注意)。
世界最大のショッピングサイト「DAILY FAST」の西武蔵野ロジスティクスセンターで、ブラックフライデーの直前に出荷された荷物が連続で爆発し、死傷者が出るという事件が発生。犯人はSNSを通じて爆弾が 12 個あることを示唆し、世間は混乱に陥る。新センター長としてやってきた船渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔とともに事件の真相を解明するために知恵を絞る。
消費者や米国本社からのプレッシャーを前に、不安を抱えながらもエレナは出荷を続けることを選択。それで警察と対立し、配送業者を苦しめる。その時、第4機動捜査隊の伊吹藍と志摩一未の捜査により、物流センターの元社員・山崎佑が事件に関与している可能性が浮上するのも、彼は5年前から昏睡状態であることが確認。伊吹の勘から、犯行の背後に女性の存在があると推測し、間もなく山崎の婚約者・筧まりかが連続爆破事件の犯人としてほぼ特定。
一方、エレナは爆発物を探すためにX線検査機を導入するほか、物流センターに爆発物が運び込まれた方法についても模索し、最終的に「物流代行サービス」が利用されたと突き止める。筧まりかは、物流代行サービスを通じて爆発物を仕込んだ商品を倉庫に送ってから、派遣社員として倉庫内に入り込み、出荷元のラベルを剥がして通常の商品に偽装していた。このトリックを解明したことで、物流代行サービスのデータから未発見の爆発物を見つけ出すことが可能となったが、最後の爆弾はすでに出荷されてしまった――12 個目の爆弾は、担当の配達員に回収させるしかない。
そして事件解決の鍵を握るのは UDI ラボ。法医・三澄ミコトが最初の爆発事件での犠牲者の遺体を解剖し、その結果から筧まりかはすでに死亡していると判明。つまり犯人はもう不在、これ以上の犯行はもうないはず。そして筧の仕掛けた 12 個目の爆弾も、現場の配送員の機転で最小限の被害にとどまった。事件後、解雇されたエレナは「まだ爆弾はある」と言い残し、物語は幕を閉じる。
あらすじを読むと、『MIU404』の第4機動捜査隊の出番が多いように感じるかもしれないが、実際には伊吹と志摩の出番はわずか数シーンであり、『アンナチュラル』の三澄の出番もごく短い。シェアードユニバースから画面に最も長く映るのが、『アンナチュラル』に登場した刑事の毛利と向島の2人で、「警察サイド」の代表としてほぼ全編に活躍。
なのに、エレナは物語の中心人物でありながら、犯人のトリックを解明し、爆発物を仕込んだ商品を見つけ出す役割を果たしているものの、筧まりかを犯人と特定する手掛かりは出番の少ない第4機動捜査隊と、さらに出番の少ない UDI ラボが握っており、最後の爆弾を食い止めるクライマックスシーンに至ってエレナと全く関係なく、現場の配達員が身を挺して解決する形になっている。
だからの違和感なんだろう…中心人物として描かれているはずのエレナが、ストーリーラインの中心にはいない。視点を『MIU404』のゲストキャラに置き換えた番外編、外伝的な作品のように感じてしまう。
もし「シェアード・ユニバース」でなく、第4機動捜査隊や UDI ラボの存在を単に「警察」として一括りにすることで、この微妙さは和らげるかもしれない…んぅ、それでも和らげないかもしれない。物流センターという大きな密室から離れられないエレナと孔がもしかして、最初からこんな物語に介入する限界があるかもしれない。
とはいえ、この映画は興行的に大成功を収めている。2024 年 8 月 23 日に公開された後、10 月初めには興行収入 50 億円を突破しており、観客の満足度が高いことがうかがえる。台湾でもまだ公開日は発表されていないが、配給会社がすでに決まっている。
まあ長々と微妙な評価を語ったけど、実際に映画館で見た時にはとても楽しかったよ。特に『MIU404』コンビが音楽と共に颯爽と登場する場面には胸が高鳴った。そして最初に述べたように、脚本家を目当てで見に行った自分としては十分に満足している。もし野木亜紀子の脚本が好きなら、少し微妙な部分があっても、見逃すべきではない映画だと思う。