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ラストマイル』の感想をあらすじ込みで長々書いたから、同じ9月に東京で見たスオミの話をしよう』の感想を手短く語ろうか。

ぶっちゃけ言うと、微妙。

映画ではなくて、舞台演劇を見せられた感じ。

でも長年、三谷幸喜のファンをやってきたから、満足したかというと満足。なにせ映画のチケット代でこんな豪華な出演陣の舞台が見れるから、言うことはないよ、みたいな。

舞台だとかなり高くなるんだろう。ましてこんな豪華な出演陣、九分九厘チケットは取れない。

そう。舞台仕立てだよね、この映画は。三谷映画の大きな特徴のひとつである「長回し」も、気でも狂ったのかと問い詰めたいぐらいに濫用…あ、いや、多用していた。そして長台詞も多く、普通に舞台でやって、普通にステージ収録映像を流してくれれば良くない?と思ってしまうほど舞台演劇的な映像で、役者たちの演技も、どちらかと言うと舞台寄りで、映画にしては大げさだよね。

特に、瀬戸康史の演じる刑事がセスナ機から機外に落ちてしまったシーンは、脚本も演出も正直もう舞台でしか成り立たなくて、映画やドラマなどの映像作品でやるのは度胸があるというか、実際NGだと思う。

しかしなんというか、まあ、三谷映画だし(天の声:えっ?)

メインの感想はだいだいこんな感じだが、細かく言ってしまうとそれも思うところがあって、とにかくあらすじを(以下、ネタバレ注意)。


物語は詩人で大富豪の寒川しずおの妻、スオミの失踪から幕を開ける。捜査を担当する刑事の草野圭吾は、かつてスオミと結婚していた元夫であり、彼女の突然の失踪に動揺を隠せない。やがてスオミの元夫と名乗る人物が次々に現れ、事態は一層混迷を深めていく。登場する元夫たちの顔ぶれも実に多様である。庭師である魚山大吉、人気 YouTuber の十勝左衛門、さらにはまた警察官の宇賀神守。彼らはそれぞれ異なるスオミ像を語る。魚山にとってスオミはツンデレの女性で、十勝にとってはビジネスパートナー、宇賀神には日本語が話せない中国人女性であったという。

元夫たちがやっとスオミの居場所を突き止め、すべてが狂言誘拐だったと判明。そしてスオミは、それぞれの夫に合わせて異なる自分を演じていたことも明らかに。幼少期から他人に合わせる術を身に着けていた彼女は、他人の理想に応じて自己を変えることで多面的な存在となっていたが、ついには本来の自分を取り戻そうと決意する。今回の失踪は、彼女は友人と共にフィンランドへ移住を図っていたのだ。こうしてスオミは男性たちの束縛から離れ、自らの意思で新たな人生を歩み始める。


実を言うと、この「5人の男が、その場にいない1人の女について語り合う」という図式は、どうしても2007年の映画『キサラギ』を思い出す。

脚本は古沢良太で、役者はのちに不祥事で消えた小出恵介と香川照之がいるのが貴重。映画なのに舞台の文法でできたような『スオミの話をしよう』とは逆で、もとは舞台だが、映画化した際にはちゃんと映像の文法を踏んだ作品。あらすじを書き出してみるとこうなる。


5人の男性ファンが小さな部屋に集まる。彼らは、1年前に自殺したアイドル・如月ミキの1周忌を偲んでオフ会を開く。オフ会のメンバーは、ファン仲間としてネットで知り合った。彼らは「家元」、「スネーク」、「オダ・ユージ」、「安男」、「いちご娘」といったハンドルネームで呼び合う。

最初はそれぞれがミキへの思い出を語り合うが、やがて「ミキは本当に自殺だったのか?」と疑問が持ち上がり、彼女の死の真相を探ることに。各メンバーが持つ断片的な情報や当日の目撃証言を突き合わせると、ミキの死に関する謎がさらに深まり、誰も予想しなかった意外な真相が明らかになっていく…!


似てるよね。『キサラギ』が大好きで、DVDを買って数十回も流したから、『スオミの話をしよう』の予告を見ただけではどうしても思い出す。そして『キサラギ』のようなミステリ、謎解きに重点を置く展開に超える何かをついつい期待してしまう。

また、三谷作品で「2人の男が、その場にいない1人の女について語り合う」という名作『You Are The Top ~今宵の君~』があるので、斜め上でもきっとその上にいけるのだろう、と。

しかし蓋を開けてみると、「スオミとは何者なのか?」に対する答えは普通にコント。ミステリのミもない、はっきり言ってあまりにも捻りのなかった「真相」には少し怒りさえ覚えた。ミュージカルをやってる場合じゃないと、三谷映画でなければ許せなかったかも。

あと長澤まさみでなければね。

長澤まさみの演じるスオミは「消えた」との設定だが、実際元夫たちの思い出話には頻繁に出てくる。シャイな女性、有能なセレブ、タクシーの運転手や女子中学生など、5人の夫の理想像プラスアルファでまさに七変化。「日本語が話せない中国人女性」の喋る中国語は訛があったものの、なんと字幕なしでも普通に聞き取れる。すごい。

けど。この七変化の長澤まさみは、またもや古沢良太だが、どうしても「コンフィデンスマンJP」のダー子が重ねて見えてしまう。なかなか「スオミ」になれないのもね、三谷さんが長澤まさみの五段活用か七段活用にちょっと出遅れていた感じがする。

しかしなんというか、まあ、三谷映画だし(天の声:おいおい)

とはいえ、『スオミの話をしよう』もまた、三谷作品でよく見る「事情により、本来の自分とは違う何者かを演じる」という枠組みを持ち、『ザ・マジックアワー』が代表する、偽物でも演じ続けることで本物を凌駕するという物語とは逆で、スオミの場合は演じ続けることで自分を見失い、最終的には演じるのを辞めて、本物の自分を取り戻そうとする過程を描いている。これがなかなか興味深い。

何かしらの挑戦だと感じる。

おそらく 2022 年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の 13 人』で、従来の「女性を描くのが苦手」とされる評価を覆したからのではないかと思う。今度はより大胆に女性を描こうとして、テーマも見方によって「男性が与えた役割からの脱却」と解釈できて、かなりフェミニズムに映る。

が。古き良きハリウッド映画を愛する三谷さんだからか、笑いの予定調和を求めるあまりに、フェミニズムという現代的なテーマがうまく扱えなかった気がする。それで微妙だと感じてしまうかも。やっぱちょっと古いかな。良いんだけどね。

elielin

数年前は東京でアニメ制作進行をやってた台北在住の台湾人編集者です。おたくでもギークでもないと思うけど、そう思っているのがお前自身だけだと周りから言われています。時々中野区に出没。

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