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ずいぶん前になったが、「なぜ手塚作品を」というエントリで、神戸生活もええでよサンからコメントで「どうして自国の書き手を使わず、緒方さんを表紙に使い続けるんだろう」と聞かれた。

これはですね、思い出すといつも悲しくなる訳があるんですよ。

一昨年の冬。台湾に戻り、雑誌の立ち上げの準備をしようとする時には、要領はそんなに得てなかったかもしれないが、ちゃんと台湾の出版業界の先輩方々にいろいろリサーチしてみた。

「台湾漫画と小説の若手を発掘し、育てる雑誌」というコンセプトを紹介したら、「政府の助成金を申請しないでやるのか?じゃ全然儲からないから[1]政府から助成金をもらい、それより少ないコストを使って雑誌を作れば、その差額が儲ける、という考え方。実際、助成金をもらってやっている二冊の雑誌は、作家への原稿料を削りその差額が出るように仕組む噂(ページ単価はうちの新人の原稿料の半分や七割しかないから、そういう噂が出てきたらしい)。やめろ」とか、「日本漫画を置かないの?えっ?手塚治虫ってだれ?そんな古い漫画なんて誰も読まないじゃない?」とか、「台湾人作家の枠を一人に絞って、そのほかには日本の漫画雑誌から持ってきた方がいい。理想ばかりじゃ飯は食えない」とか…しまいに「そんなのは金の無駄だから私に投資してください」という非常識なアドバイサー[2]って、こいつは台湾で「漫画評論家」という肩書きで、台湾の大学を中心に漫画アニメ関係サークルに招かれたり、講演したりしているけどね。まで現れ、もうこれでいいと思いリサーチを止めた。これ以上台湾の出版業界に失望したくないのもあるが、どうせ誰も台湾の実状を把握できていないし、誰も漫画を「作った」ことがないし、そして他人事のように語る憶測や意見を、いちいちマジメに考えるのが、本当に疲れてきたから、もういい。[3]ここら辺は完全に愚痴:手塚プロ講談社と交渉した時に、外国人である日本の方々からは「難しいけどがんばってね、何か手伝うことがあれば言ってくださいね」という暖かな言葉までもらえたのに、同じ台湾人で出版人なのに、お前らのその態度はなんなんだ!?別に何かをしてほしいとかは全然望んでいないが、「やめろ」「無駄だ」と連発してて何様のつもりだ…だから大人が嫌いなんだよ。ええっ、悪ガキです。

ただ一つ、とても引っかかった意見があった。

表紙を台湾人に描かせてみ。全員新人作家でしょう?出版社も小さいし、そんなの本屋にも置かしてもらえないんだよ。

そんなバカなと日本の方々は思うかもしれないが、私も当初半信半疑だった。しかし前例[4]四・五年前、台湾製のゲームなのに、パッケージイラストだけ日本の作家にお願いするケースがいくつもあった。原因というと台湾製ゲームはこうもしないと、店では棚に置かせてもらえないらしい。もあるので、その後取次ぎに聞いてみたら、「ええ、そうですね。日本人でもアメリカ人でも外国人であれば誰でもいいですから、表紙だけでも外国人に描かせた方がいいです。本屋との交渉がやりやすくなります。どうしても台湾作家の表紙で行くでしたら、仕入れできる冊数は少なくなるかも知れません。」

ここだけは譲らないと何も始まらないようだ。「…仕方ない、譲ろう」と観念したら、今度新しい問題が浮かび上がってきた。

誰でもいいと言われたが(そんなのできるかボケ!!)、誰にお願いすればいいのか?手塚作品を載ってるから手塚さんの絵を表紙に?いいや、それじゃ「手塚治虫マガジン」になってしまう。「挑戦者」だから島本先生に頼もうか…でも丁重に断われてしまった(残念T-T)

そこで思いついたのが、緒方剛志さんだった。直接で一緒に仕事したことはないけど、アニメ会社にいた頃には、一時期同じフロアだったのでよく顔を合わしてた。自分はもともと緒方さんの絵が好きで(特にあの暖かい色使いが好き)、また漫画と小説を共に居合わせた月刊挑戦者には、ライトノベルの表紙をたくさん手掛けてきた緒方さんの表紙なら、雰囲気もぴったり合うのではと。

ダメもとで頼んでみたら、緒方さんはなんと快く引き受けてくれた。これでやっと取次ぎが投げ込んできた爆弾を解除した。去年の一月末のことだった。

それから一年半の間、緒方さんは時間管理のずぼらな私に付き合い、さまざまなテーマに合わせ、台湾の風景や小道具などを織り交ぜ、いつもスピーディーでしっかりした表紙絵を描いてくれた。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。

よって、最初は外在環境への妥協ではあるが、それでも雑誌の性格をよく考えた末に決めた緒方表紙なので、編集方針の変更がない限り、表紙作家は変えないつもりだ。その代わり年に四回、誌上作家カラーイラスト競作特集を組む。いつか彼らの絵が、表紙に飾れる日が来るのを信じて。

References

References
1 政府から助成金をもらい、それより少ないコストを使って雑誌を作れば、その差額が儲ける、という考え方。実際、助成金をもらってやっている二冊の雑誌は、作家への原稿料を削りその差額が出るように仕組む噂(ページ単価はうちの新人の原稿料の半分や七割しかないから、そういう噂が出てきたらしい)。
2 って、こいつは台湾で「漫画評論家」という肩書きで、台湾の大学を中心に漫画アニメ関係サークルに招かれたり、講演したりしているけどね。
3 ここら辺は完全に愚痴:手塚プロ講談社と交渉した時に、外国人である日本の方々からは「難しいけどがんばってね、何か手伝うことがあれば言ってくださいね」という暖かな言葉までもらえたのに、同じ台湾人で出版人なのに、お前らのその態度はなんなんだ!?別に何かをしてほしいとかは全然望んでいないが、「やめろ」「無駄だ」と連発してて何様のつもりだ…だから大人が嫌いなんだよ。ええっ、悪ガキです。
4 四・五年前、台湾製のゲームなのに、パッケージイラストだけ日本の作家にお願いするケースがいくつもあった。原因というと台湾製ゲームはこうもしないと、店では棚に置かせてもらえないらしい。
elielin

数年前は東京でアニメ制作進行をやってた台北在住の台湾人編集者です。おたくでもギークでもないと思うけど、そう思っているのがお前自身だけだと周りから言われています。時々中野区に出没。

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